
渡航前面談レポート#9
プラスチックとヒトとの関係をテーマに作品を制作してきた現代美術家の安西剛さん。近年はマイクロプラスチックを巨大化した立体作品を、ペーパークラフトの手法を用いて制作しています。環境問題と結びつきがちなマイクロプラスチックですが、安西さんの視点は、素材を人間の意図や都合から解放する「フリープラスチック(Free Plastic)」。その独自の視点は、誰に、どう伝えると効果的なのでしょう。考え方や方法、そして現地のアート関係者等へのアプローチ方法などについて、さまざまなアドバイスを求めました。
面談実施日:2026年7月10日

アドバイザー:エキソニモ
「フリープラスチック」を明確に、気の合う仲間を見つける
プラスチックをテーマと素材に
東京藝術大学の音楽環境創造科出身で、在学中から美術作品を制作してきた安西さん。プラスチック製の日用品を組み合わせた、キネティック・スカルプチャーなどを過去作品として紹介しました。
プラスチックをテーマに制作を続けてきた安西さんが近年取り組むのが、マイクロプラスチックを人の背丈ほどに巨大化した立体作品です。「普段気に留めてない物体をでっかくすることで可視化している作品。環境問題が紐づきがちだが、その文脈に絡め取られないようなバランスを探っていきたい」と安西さん。ペーパークラフトの手法でつくられているこのシリーズは、コンパクトに折りたたむことができるため、ニューヨークにも持参しプレゼンテーションの機会をつくりたいと言います。
プラスチックフリーではなくフリープラスチック
エキソニモの千房けん輔さんと赤岩やえさんからは、作品のコンセプトや、環境問題の考え方について質問がありました。日用品を組み合わせることから作品制作をはじめたという安西さんにとって、プラスチックは身近な素材であり、批判の対象ではないと話します。「プラスチックフリーではなく、フリープラスチック。マテリアルを人間の意図や都合から解放したい」と独自のスタンスを示しました。
「フリープラスチックというのは面白い」とエキソニモの二人は声を揃えます。「一般的な環境問題を扱う人と違う視点。ちゃんと言語化して膨らませておくと伝わりやすくなるし、誤解がなくなる」と赤岩さん。千房さんも「欧米には極端な環境活動家もいるので、そういう意味でも安易に結びつけられると危険。彼らは基本的にプラスチックを嫌っているけれど、安西さんはプラスチックが好きでやっている。違いを明示できるといい」と加えました。
同世代の仲間やコミュニティを見つける
10年前にヒューストンでAIRに参加したという安西さんですが、長年連絡をとっていない知人をどの程度頼ってよいものか、迷いがあるようです。エキソニモの二人からは「知らない人に直接連絡しても会ってもらえない可能性が高い。人づてに紹介してもらうのが一番」と、遠慮せずどんどんツテを頼るようアドバイスがありました。また「作品を見てほしい、インタビューをしたいなど、会う目的を明確にすることでアポが取れる可能性は高まる」と赤岩さん。
一方で、同世代の気の合う仲間やコミュニティを探すことも重要といいます。「出会った頃はお互いにペーペーだったのに、ザック(ザッカリー・リーバーマン)のように、今やMITメディアラボの教授になっている友人もいる。まずは気が合う、つながれる人を見つけることも大事」と赤岩さん。アート関係者のSNSはインスタグラムが主流で、DMは遠慮せず送っていいのだそう。千房さんからは「これまでの投稿を渡航前に見直して、パッと伝わる投稿や、翻訳付きの投稿を増やしておくのもいい」とアドバイスがありました。
アドバイザー:戸村朝子
展示の機会をつくりながら、NYのサスティナビリティをリサーチ
現代美術文脈での可能性
2024年度、文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択されプロジェクトを展開した安西さん。同事業でアドバイザーを務めた戸村朝子さんは、安西さんの活動をよく知る存在です。「安西さんの作品は視覚でメッセージが伝わりやすく、説明不要。主張の強いニューヨークの気質には合っているのでは。現代美術の文脈でも語れる作品なので、アートマーケットへの参入を視野に入れて活動してみるのもいい」と戸村さん。本プログラムのアドバイザーの一人、塩野入弥生さんなどとの面談の機会を持つことを薦めました。
展覧会をするべきか?
「ニューヨーク滞在中に現地で展示をするか、あるいはリサーチやミーティングに集中するべきか」と安西さん。作品はコンパクトに収納して持ち運べるため、そのメリットを活かしたい一方で、「経験上、1ヶ月半という期間に展示を組み込むと余裕のないスケジュールになってしまう」という懸念も漏らします。「このプログラムのいいところは、孤軍奮闘になりがちな海外でのチャレンジに、手厚いサポートが受けられるところ。寄りかからない手はない。アーティストにとっては、作品を実際に見せることが一番リフレクションを得られる活動」と戸村さん。サポートをフル活用して展示の機会を得ることを勧めます。議論はその後、展示場所やタイミングなどの具体的なアイデア出しに推移しました。
NYのサステナビリティ生態系を辿るリサーチ
滞在中、大学等のラボに訪問しヒアリングやリサーチを行いたいという安西さん。アプローチ先の選定やレターの書き方などについてアドバイスを求めました。電子顕微鏡や3Dスキャンの高度な技術を有する物理学領域のラボを候補として挙げていますが、戸村さんはそこに疑問を抱きます。「ニューヨークの研究開発組織とやる意義が見えにくい。材料技術に関しては、むしろ日本の企業や機関の方が進んでいるのでは」と指摘。
また、「ローカルな文脈にどうつなげられるかは、このプロジェクトにとって重要なポイントだと思っている」と安西さん。リサーチはその試みの一つと話します。そこで戸村さんからは「コロンビア大学のEarth Institute(現Center for Sustainable Development)はアプローチしてみるといいかもしれない」と提案。技術ではなく、ニューヨークにおけるサスティナビリティに関する思想や活動、歴史のリサーチへシフトする提案です。国連本部を有するニューヨークには、現在のようにサスティナビリティが当たり前に言われる以前からその生態系があったといいます。「ニューヨークは物理学の中心地ではないけれど、サスティナビリティの震源地ではある。まずはそちらの人とつながるといいのかも」と戸村さん。「そこから、テクノロジーの専門機関につながる可能性もある」と安西さんも同意しました。


