左上にWAN Report: Pre-departure Advising Session、TANAKA Miyuki、渡航前面談レポート、田中みゆきと記載され、田中とWANのアドバイザーたちのプロフィール画像がレイアウトされている。

渡航前面談レポート#1:田中みゆき

アクセシビリティ研究や社会福祉の分野を軸に、カテゴリーにとらわれない活動を展開する田中みゆきさんの、ニューヨークへの出発を間近に控えた2025年7月。オンラインでアドバイザーたちとの面談を行い、現地でどのような視点をもって活動するのか、持ち帰る成果や目標について話し合われました。滞在期間の意識をあらためて整えるセットアップとして、複数日にわたって行われた面談の概要をまとめます。

面談実施日:2025年7月8日、16日、17日、31日

アドバイザー:戸村朝子
境界を自然に超えていくスタイルを疎に、現況からの知見を積み上げる

アドバイザーの戸村朝子さんとの面談では、今回の滞在の目標をどのように設定し、どういった形で成果を発表するのか話し合われました。

田中さんはすでに2022年に半年ニューヨークに滞在した際に行った障害者コミュニティのリサーチだけでなく、滞在時の生活や活動を映像で記録する可能性に言及しました。キュレーター、アクセシビリティ研究者、ソーシャルワーカーというさまざまなバックグラウンドを持ち、展覧会、パフォーマンス、ゲームなどジャンルを越えて横断的に活動することが多く、既存の発表プラットフォームに当てはまらないと話す田中さんに対し、戸村さんから、「テーマドリブンで境界を自然に越えていく田中さんのこれまでの活動スタイルには自信を持っていただいて、今回の滞在はそこを礎とした新たな展開を見出す通過点と位置づけるとよさそうです。無理にこの期間に目に見える形での成果を求めず、トランプ政権下の米国の現況も踏まえて、前回の滞在からの変化点の発見など、新たな知見を積み上げる機会にしてほしい」とアドバイスがありました。

その後、話題は日本と米国における障害者コミュニティの文化的ギャップに及びます。

田中さんは、米国では当事者が主体的に文化を形成している一方、日本ではマジョリティとの同化が正とされていると分析します。戸村さんからは、田中さんを異なるジャンルを繋ぎ合わせるパイオニア的な存在だとした上で、継続的にマジョリティへ働きかけることで、現状をそれなりのインパクトを伴いながら変化させていくことへの期待を伝えました。

アドバイザー:エキソニモ
効率性を目指さないテクノロジーの可能性を探る

エキソニモの千房けん輔さんとの面談では、プロジェクトの方向性について話し合われました。

田中さんは探究テーマとして「テクノエイブリズムへの抵抗」を挙げます。

テクノエイブリズムとは、健常者を前提として人のあるべき姿を想定し、それに合わせる、あるいはそれをより増幅させる方向にテクノロジーが用いられているという概念で、バージニア工科大学の教授のアシュリー・シューによって提唱されました。
田中さんからは、効率性や生産性を追い求める資本主義社会において、障害のあるアーティストだけでなくメディアアーティストやテクノロジーを扱う仕事に従事する人たちが、そうしたテクノロジーの可能性にどう抗っているのかを探りたいと話しました。

千房さんは、それは資本主義傾向が非常に強いニューヨークでこそ鮮明に表れるだろうと共感し、NEW INCなどのネットワークを活かしてクリエイターと繋がるだけでなく、まったく異なる業種の人にも目を向ける必要性を話しました。また、米国と日本やヨーロッパを比較することで興味深い違いが見られるのではないかと述べます。
AIについても議論され、生産性を劇的に上げるであろう現状のテクノロジーの使われ方に対する違和感の中で、「テクノロジーで無駄をつくる」「テクノロジーを役に立たない方向で使う」という視点の重要性が語られました。最後に田中さんから、プロジェクトの中での出会いを生かした映像に残す考えが示されました。

アドバイザー:イェスル・ソン、サロメ・アセガ
複数人での対話を通し、テクノロジーへ向き合う新たな視点を得る

アドバイザーのイェスル・ソンさんとサロメ・アセガさんとの合同面談では、田中さんが2022年にニューヨークに長期滞在した経験があるなかで、今回はその活動の発展型として障害のないアーティストらとも対話を行い、そこで得た知見を映像としてまとめる構想を最初に共有しました。
田中さんは滞在を通して「エイブリズムに陥らないテクノロジーのあり方」を研究する予定です。アートにはビジネスや社会全体とは異なるかたちでテクノロジーに向き合える可能性があり、この研究により障害当事者とアーティストを含めた非当事者を繋ぐことができるのではないかと田中さんは述べます。その例として、田中さんがこれまでに取り組んできた、視覚情報に依存しない、音でつくられたゲームのプロジェクト「オーディオゲームセンター」の取り組みを紹介しました。

ソンさんは、自身も視覚情報に依存しない作品を制作した経験を共有し、障害はスペクトラムであり、障害者と非障害者の境界に疑問を投げかける田中さんの繊細な取り組みに共感すると述べました。アーティストの中にはこうした価値観を持っている人物も多いことから、一対一のインタビューよりもむしろ複数人での対話をすることで新たな視点を得るきっかけをつくることを提案。また、「スロー・テクノロジー」を研究するウィリアム・オーデム、「スロー・ゲームズ」の作者であるイシャック・バートラン、また10月に開催されるニューヨーク公共図書館での「アクセシブル・テクノロジー・カンファレンス」など、田中さんの研究に関連する人物や機会を紹介しました。

アセガさんからは、すでに田中さんと交流のあるアーティストのフィネガン・シャノンやボジャナ・コクリヤット、ケヴィン・ゴットキンだけでなく、若手活動家のダフネ・フリアス、車椅子マークを再デザインした「アクセシブル・アイコン・プロジェクト」のサラ・ヘンドレン、また神経多様性を持つアーティストのためのレジデンシープログラムを提供するニューヨークの「サマータイム」など、田中さんの活動の参考となるキーマンやプロジェクトが紹介されました。

最後に田中さんが日本のユニークな取り組みとして「遅四グランプリ」を紹介し、障害とは直接関係のないプロジェクトであっても加速するテクノロジーに抵抗するものとなることと、誰もが追求できる普遍的なテーマであることを強調しました。