渡航前面談レポート#4:木原共

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CG-ARTS(公益財団法人画像情報教育振興協会)
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新たな問いを引き出す遊びをテーマに、実験的なゲームやインスタレーションを制作する木原共さんにとって、「交差しつつあるアートとゲームの領域の現在地」は関心の高いテーマの一つです。2026年2月からのニューヨークへの渡航では、この2つの領域が交わる場所に生まれる多様な可能性のリサーチを予定しています。2025年7月に行われたアドバイザーたちとのオンライン面談においても、このテーマをめぐって意見を交換しました。各アドバイザーと複数日にわたって行われた面談の概要をまとめます。

面談実施日:2025年7月8日、16日、17日、31日

アドバイザー:戸村朝子
ゲームシーンとアートシーンへの俯瞰的視点を持つこと

アドバイザーの戸村朝子さんとの面談では、木原さんが暫定的に作成したゲームとアートの2つの領域の交差点で起きていることに関する事例やマッピングした図を見ながら、この関係の変化をどのように捉えるべきか議論されました。
木原さんからは現代美術の文脈でゲームが主に美術館等の文化施設で展示される例が増えてきていることが紹介されました。具体的には、ハンス・ウルリッヒ・オブリストがキュレーションを担当しポンピドゥ・センター・メスで開催された「Worldbuilding: Gaming and Art in the Digital Age」展や、森美術館の「マシン・ラブ:ビデオゲーム、AIと現代アート」などが挙げられました。
一方、美術館でゲームを展示する際の文脈の位置付けや、ゲームのプレイを可能にするかも含め、ベストな展示方法が模索されていると木原さんは説明します。また、もともとゲームは「東京ゲームショウ」などの見本市で宣伝目的として「展示」されることが主流であるため、美術館でのそれとは異なる目的であり、同じ「展示」カテゴリーの中で方法が議論される面白い状況だと語りました。
戸村さんは、木原さんの活動がゲームとアートの間に新たな地平を切り開くものであると評価しつつ、言語化やポジショニングの難しさを指摘。多くの人に理解されるためには、既存の美術文脈とも接続する「数行の説明」で自らの立ち位置を示すことが必要だと助言します。加えて「ゲーム」としてのフォーマットを保つため、ゲームセンターのように試遊の様子も眺められるといった鑑賞者の行動も織り込んだ展示形態のアドバイスもありました。木原さんは「どうすればポジショントークにならず、ジャンル全体の豊かさの探求になるのか迷う」と語り、さまざまな作品が抱える文脈を網羅的に見せる方法を模索する意図を示しました。
木原さんは、リサーチの成果をZINEとしてまとめることを検討しています。戸村さんからそのアウトプット計画について、書籍の形式にすることで一歩引いた視点で紹介できること、またカフェや街中で気軽に触れられるZINEの形は、インディーゲームにも通じる草の根的なゲーム文化の本質に合うとの感想がありました。木原さんはその意見に共感し、今後のリサーチと実践の方向性を明確にしました。

アドバイザー:エキソニモ
美術館で展示されるゲームをめぐる評価軸の違い

エキソニモの千房けん輔さんと赤岩やえさんとの面談では、アート展示の中で増えつつあるゲーム的な表現について議論が行われました。中心的な話題となったのは、「ゲームはこう展示されるべき」というシーン(分野)ごとの認識の違いでした。ゲームを扱った最近の美術展では、ゲーム業界の関係者から「プレイできる作品が殆どなくて、映像作品しかないのは果たしてゲームの展示としてどうなのか」という批評が挙がっていました。ゲームならではの双方向性のある遊びを評価するのか、それとも美術文脈の中での新しさを評価するのかで大きく捉え方が異なるため、幅広い実践者に多角的にインタビューをすることで、アート展示のなかのゲームのあり方を整理する必要性があるとの意見が出ました。
インタビューの対象としては、ニューヨーク大学のゲーム専攻に関わっている人物などが挙げられ、どういった活動がなされているかなど、千房さんや赤岩さんと意見が交わされました。またMoMAでゲーム作品を収蔵した部門がアートではなくデザイン部門であることが指摘され、ゲームが持つ複合的な側面についても言及されました。

アドバイザー:イェスル・ソン、サロメ・アセガ
ニューヨークでリサーチすべき対象について

アドバイザーのイェスル・ソンさんとサロメ・アセガさんとの合同面談は、木原さん自身のゲーム型のインスタレーション作品を展示した際に、著名なゲームデザイナーから「これはゲームではない」と言われたエピソードを紹介するところから始まりました。それを元に、この2つの領域の文脈の違いから生じる認識にずれがあることや、コリー・アークエンジェルのようにゲームを素材として扱った美術作品としての「ゲームアート」と、アートの文脈を念頭につくられる遊べるゲームである「アートゲーム」と呼ばれるものにも違いがあることなどに言及。こうした関係性を整理することで、2つの領域が交差することの豊かさを伝えたいという意向を示しました。
ニューヨーク滞在中には、ゲームとアートに関わる実践者へのインタビューを予定していると説明すると、アセガさんからはインタビューの対象として、AIやゲームに関わるさまざまな人が紹介されました。さらに、ニュー・ミュージアムで開催予定の、100年に渡る人とテクノロジーの関係を概観する展覧会や、NYUのITPやNEW INC出身のアーティストなども紹介されました。
ソンさんは、インディーゲームのアーケードスペースであるワンダーヴィルの関係者がITPでアーケードゲームについて教える授業を受け持っていたり、イベントを行っていることを紹介。誰もが飛び入りで参加できるオープンマイクなどイベントへの参加を提案しました。さらに、商業とアートの境界という点で類似するファッションの事例として、韓国の一民美術館で開催されたファッション展「時代服装(Iconclash: Contemporary Outfits)」を例に、商業的要素とアート文脈についての木原さんの探求のヒントになるのではないかと指摘しました。
最後に、MoMAのアーカイブに収蔵されている古いゲームなどの貴重な資料についても言及され、アセガさんから研究者であれば事前申請により実物資料の閲覧や旧ゲーム機を用いた体験も可能であることが説明されました。