渡航前面談レポート#2:青木竜太

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CG-ARTS(公益財団法人画像情報教育振興協会)

アーティスト兼インディペンデント・キュレーターの青木竜太さん。2025年10月からのニューヨークへの渡航に先立つ7月に、オンラインでアドバイザーたちとの面談を行いました。今後の国際的な活動を視野に入れ、現地で訪問するべき文化施設や会うべき人物、イベント等の情報を蒐集します。各アドバイザーと複数日にわたって行われた面談の概要をまとめます。
面談実施日:2025年7月8日、16日、17日、31日

アドバイザー:戸村朝子
アジアから新たな文化連携を構築する

アドバイザーの戸村朝子さんとの面談では、青木さんの活動の方向性や新たなアジアン・フューチャリズムの構想を軸に、日本やアジア、欧米のメディアアートや文化政策の現状について意見が交わされました。
戸村さんは、青木さんが既成の枠組みにとらわれずに現代の課題に対しての問題提起する「社会彫刻」的なアプローチを取っている点を評価し、今回のニューヨーク滞在を一過的な成果ではなく、国際的に通用するキュレーターとしての糧にすべきだと助言。青木さんはそれを受けて、自らの在野的な立場や起業家としての視点を活かし、行政依存に偏らない新たな文化振興構造を模索していると述べました。
またアジアにおける現状に関しては、中国・香港・台湾・韓国のメディアアート分野の活動やタイ政府の動きなどが戸村さんから紹介されました。青木さんは、アジア各国が連携し、分散型の協働モデルを築く必要性を強調。アワードやフェスティバルを「創造的連帯」の媒介として活用する構想を語りました。
戸村さんは欧州の動向を踏まえ、価値観の多極化とともに文化予算の縮小を懸念します。アジアにおける独自の倫理観やネットワークの形成が重要だと述べました。欧米中心の構図を越えて、アジア全体が連携することで新しい共同プラットフォームを築く展望が二人に共有され、面談は締め括られました。

アドバイザー:エキソニモ
新たなプラットフォームを通して新たなアジアン・フューチャリズムを実現する

エキソニモの千房けん輔さんと赤岩やえさんとの面談では、最初に青木さんが構想する、アジアの創造的連帯を生み出す新しい詩学や新たな「アジアン・フューチャリズム」について説明されました。これは各地域などにある伝統芸能や工芸、民話神話などの伝統文化やサブカルチャー、社会課題、環境問題含む現代文化を現代技術とSF的視点で再解釈し、それぞれの当事者たちが自分らの言葉や行動から発信し、国単位ではない都市レベルなどの小さなコミュニティ単位で新しいフューチャリズムとして捉え直すという考え方で、青木さんはそれを実践するプラットフォームを構築したいと説明。ニューヨークでは、米国で活動するアジアのクリエイターへのインタビュー、文化機関へ運営・資金調達の調査、投資家へのピッチを準備し、最終的には活動を可能であればZINEなどの形でまとめたいと述べました。
エキソニモの2人からは、米国のSouth by Southwest(SXSW)、Rhizome World、トライベッカ・フィルムフェスティバルのイマーシブ展など、関連するイベントを紹介。また、米国でのファンディングの仕組みは日本とは異なり、民間寄付や財団が中心である点を指摘し、直接的な資金獲得よりも、文化機関の手法を学ぶことやディスカッションの場を持つことに意義があるのではという助言がされました。またアドバイザーの1人でもあるイェスル・ソンさんが教鞭を執るニューヨーク大学ITPで学生と対話の機会を持つなど、著名クリエイターだけでなく、若者にとってのリアリティを知る大切さについても話し合われ、さらにAsia SocietyやJapan Societyなど、ニューヨークでの接点になり得る機関も提案されました。

アドバイザー:イェスル・ソン、サロメ・アセガ
ニューヨークでアジアのアーティストのための連携プラットフォームの可能性を探る

アドバイザーのイェスル・ソンさんとサロメ・アセガさんとの合同面談では、青木さんが考える新たなアジア・フューチャリズムをテーマにした日本版NEW INC構想についてディスカッションされました。
ニューヨークで予定している主な活動として、①ニューヨーク在住のアジア出身クリエイターへのインタビューを通じ、異文化への移住で感じるギャップや創作上の変化を探ること、②NEW INCなどの民間文化機関への調査を通じ、米国の非営利運営や資金調達の仕組みを学ぶこと、③東京周辺でのアートセンター設立に向けた投資家や協力者を見つけること、④成果を映像やZINE、SNSなどで発信することの4点を挙げました。
アセガさんは、エキソニモからの助言にも触れ、アジアのアーティスト向けのレジデンシーやプログラムなど既存ネットワークを活用することで、より効果的に対象者に出会えるだろうと提案。また文化機関の資金調達についても、NEW INCを例に説明しました。
青木さんが構想している機関は東京を拠点にする想定であることについて、ソンさんは「アジア内の橋渡しとなる試み」と捉えており、ニューヨークでの調査対象として、ニューヨーク芸術財団(NYFA)が運用する移民アーティストを支援するメンタープログラムを紹介。またニューヨーク大学ITPでのトークセッションなどを開催し、さまざまなバックグラウンドや表現媒体を持つ学生や研究者と交流する形も有効だと提案しました。
また、ソンさんは自身の経験を元にニューヨークの非営利組織の仕組みを紹介。サウンドアートやラジオアートに特化した団体であるWave Farmは、ニューヨーク州芸術評議会(NYSCA)の助成を受け、月例ミーティングで他団体やアーティストと助成金の使途を共有しており、こうしたネットワークを知ることが、資金循環や文化政策理解の助けになるのではないかと述べました。
その他の訪問先として、アセガさんからニューヨークを拠点とするアジアン・アメリカン・ライターズ・ワークショップが提案され、日本の作家との繋がりをもてる可能性が示唆されました。さらに、ソンさんからもコリアン・アート・フォーラムや在ニューヨーク韓国文化院、AHL財団、ニューヨーク大学で新たに設立準備中のコリア・センターなど、韓国に関連する文化団体の情報が提供されました。
青木さんは、昨年、韓国・光州の国立アジア文化殿堂でのレジデンシーに参加した経験を持ち、同団体の関係者と連携していることに触れつつ、東アジアから東南アジアを中心に、南アジアやオセアニアも含めた広域的ネットワークを形成したいと語りました。