クロノレキシコンとはなにか

投稿者:
CG-ARTS(公益財団法人画像情報教育振興協会)
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クロノレキシコンとはなにか

高橋裕行(メディアアート研究者/キュレーター/WAN「クロノレキシコン」企画監修)

クロノレキシコンは、WANに採択されたメディアアートクリエイターたちが、これまでの人生で何から影響を受けてきたかという個人史(年表:クロノロジー)と、それらの用語を解説した語彙集(レキシコン)からなる新しい形のデータベースです。
クロノレキシコンは、採択クリエイターの創作のバックグラウンドを、広く世界に紹介するとともに、複数のクリエイターが挙げたキーワードの関係性を示すことによって、日本のメディアカルチャーの土壌をこれまでにない形で浮かび上がらせようという目的で設計されました。
2025年12月現在は、第1期の採択者4名のデータだけが登録されていますが、今後プログラムが進展するにつれ、登録クリエイターとキーワードは増えていきます。

クロノレキシコンの画期性

これまでの年表という形式を振り返ってみると、そこに取り上げられるキーワードは、その出来事が起きた年(初出)で登録されるのが一般的でした。しかし、無数のコンテンツがインターネット上で常時閲覧可能となった現在では、人々は、必ずしも同時代の情報にばかり出合うとは限りません。むしろ、のちの時代に、何らかの形でそれらの存在を知り、遡行的にアクセスする場合も増えているように思われます。たとえば、スタジオジブリのアニメに幼少期に強い影響を受けたとか、ビートルズが好きだった両親からの影響で思春期にそれらを聞くようになった、という例は日常において、ごくありふれた出来事だと思われます。
そこで、クロノレキシコンでは、クリエイターがそのコンテンツや出来事とどのように出会い、どのように影響を受けたかを個人史として紹介すると同時に、用語解説によって、そのキーワードの初出年を含めた概要が把握できるようにしています。
クロノレキシコンの新規性はそれだけではありません。それぞれのキーワードは、個人史年表から見ると、クリエイターの個人史と紐づけられていますが、キーワードの側からみると、複数のクリエイターに影響を与えたキーワードが分かるようになっています。今後、登録されるクリエイターが増えていくにつれ、クロノレキシコンは、独自の集合知を形成していきます。それは、SNSなどに見られるタグ付けによるフォークソノミー(*)にも似ています。しかし、キーワードの選択は、あくまでWANに採択された日本のメディアアートクリエイターが人生で影響を受けたものごとを起点にしているという点が異なります。

「ひとつの歴史」から「複数の歴史」へ

日本のメディアカルチャーについては、従来から、その多様性、雑種性が指摘されることが少なくありませんでした。アートや音楽だけでなく、マンガ、アニメ、ゲーム、さらにネット上のコンテンツやサービスなどから創作のヒントを得たというクリエイターは多いでしょう。しかし、従来のカテゴリー別年表では、この「混成したカオス」をうまく表現できませんでした。クロノレキシコンでは、それらをボトムアップによって生成しようとしています。
「大文字の歴史」が終焉したと言われてからずいぶん経ちました。「ひとつの歴史」ではなく、「複数の歴史」へ。その流れは今後、ますます顕著になっていくことでしょう。クロノレキシコンはそのような潮流を可視化するための一つの試みなのです。

*フォークソノミー
「民衆(folk/folks)」と「分類学(taxonomy)」を組み合わせた造語。インターネット上のコンテンツをユーザーが自由に整理する仕組みにより、​​情報が多角的に分類される。

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