トークイベント「Salon sYmphoNY」の様子

NY報告レポート♯2:宇佐美奈緒

2026年に45日間にわたりニューヨークに滞在した、アーティストの宇佐美奈緒さんによる総括レポートです。国際女性デーを巡るイベントや、多様な背景を持つ作家たちとの対話を通じ、自身の研究テーマであるフェミニズムへの確信を深めた旅路を振り返ります。
カバー画像:トークイベント「Salon sYmphoNY」の様子

国境を越えた「連帯」の日

私は2月上旬から3月末までニューヨークに45日間滞在した。3月8日は、International Woman’s Day(国際女性デー)であり、私は滞在前からニューヨークでこの日を過ごすことを楽しみにしていた。
予想通り、現地では数々のイベントが開催されていた。私は、3月8日の午前中に「Salon sYmphoNY」という、現在ニューヨークを拠点とする人々が、それぞれの出身地域の女性やノンバイナリーのアーティストを紹介し合うイベントに参加した。デンマークや台湾、ロシア、ウクライナなどおよそ20もの国や地域からの参加者がいた。彼らの口から語られるエピソードや作品の話を聞き、連帯感が高まる実感があった。私の心の中にいつもある「今この瞬間にも世界では戦争が起きている」という危機感が、このイベントの時間だけは少し薄らいだような気がした。また、ニューヨーク国立図書館では、「Woman's History Month」が開催され、女性作家の本の読書会や教育的・経済的な問題の解決を推進するためのディスカッションが行われていた。
3月8日の午後は、「Every Woman Biennial」という150人の女性やノンバイナリーのアーティストの作品が展示されているビエンナーレのオープニングに参加した。展示作家は人種や異なる文化的背景を持つ人々で多様であった。ニューヨークには、色々な国や地域からの移民が住んでおり、街には各々の地域の食料品店や衣料品店、教会などを見つけることができる。また、彼らは人種間でそれぞれのジェンダーギャップがあることも教えてくれた。
彼らと話をしていると、私の価値観や考え方が毎日揺らいでいく実感があった。インタビューをしたアーティストの中には、移民2世や3世もおり、彼らは自身の疎外感(エイリアンネーション)を作品に取り入れていた。移民として育つことや、クィアであることなど複数のアイデンティティが交差し合いながら生活し制作を続けていることがわかった。

Artificial Agency」by Mengna Da

For a Better World」by Airco Caravan
(3点とも)「Every Woman Biennial」の様子

過酷な現実、表現を支える力

ニューヨークでは、International Woman’s Day以外の日にも、フェミニズムに関するトークやイベントが少なくとも1週間に1回は行われていた。彼らに「私はフェミニストであり最近はサイバーフェミニズムを研究している」と言うと、「それはクールだね!」という答えが返ってくることが多かった。私は、今までそのようなことを言われたことがなかったので最初はとても驚いてしまった。主にニューヨークで活躍するMindy SeuやLegacy Russellなどのアーティストや思想家の影響のため、フェミニストとして活動することが尖っていて革新的だという空気がある。滞在が終わるころには、私は自信を持って作品や活動の発信を続けていこうと肯定的な気持ちになることができた。
他にも、私と同じ研究をするアーティストや研究者に会うことができた。1つのコミュニティに入ると、そこから芋づる式に同じ問題意識をもつたくさんのアーティストと知り合うことができるのは、ニューヨークの強みである。また、ノンバイナリーやトランスジェンダーのアーティストと知り合い、彼らの作品や活動について話を聞いた。
彼らは、作家活動を続けていくには経済的に厳しいことも打ち明けてくれた。家賃や大学の学費の高騰によりルームシェアをしながら9つものアルバイトを掛け持ちしているアーティストもいた。ノンバイナリーのアーティストは、自分がクィアであることで悩みや衝突があることは少なく、ほとんど無意識的に過ごせているが、どちらかというと経済的に困難である問題のほうが大きいと言った。また、トランスジェンダーのアーティストは、街を歩くときに警察からの職務質問やID確認に怯えながら暮らす人もいる。ニューヨークやアメリカでは、国や州からの芸術の助成金はあるが、アーティストの数が多すぎて、助成を受けることが非常に難しい状況だ。作品を売って生活するか、アルバイトや大学などで働きながら生活をしている人が多い。私はその話を聞きながら、助成金をもらってニューヨークに来ている自分を恨めしく思い、良心の呵責に苛まれていた。そのような政治的・経済的に厳しい中でも、彼らは作品制作や作家活動を続けていくことはとても楽しく、仲間もたくさんいるという話をしてくれた。ニューヨークは、同世代のアーティストやキュレーターたちの横の繋がりが強く、数も多い。同じ研究を続けるアーティストたちと新しいことを始めたりコミュニティを築くには最適な場所である。

滞在中、市内で遭遇した抗議運動のデモ

(宇佐美奈緒 アーティスト)